最終決議案「国際高等教育院の設置について」(12/18)の概要と問題点

Posted by 管理人 on 12月 28, 2012
メッセージ

I 「国際高等教育院(仮称)の設置について(案)」(平成241218日教育研究評議会資料)抜粋

赤字表記は重要ポイント青字表記は省略部分

1 設置の趣旨等

・・・(省略)・・・平成21年11月17日に研究科長部会の下に「学士課程における教養・共通教育検討会」が設置され・・・(省略)・・・これを踏まえて京都大学における教養・共通教育のあり方を具体的に検討する作業が開始された。・・・(省略)・・・様々な検討が重ねられ、今回、その検討結果に基づき、現在の「企画は機構、実施は責任部局」という二元的体制を改め・・・(省略)・・・全学的共通教育の企画、調整及び実施等を一元的に所掌する全学責任組織「国際高等教育院(仮称。以下「教育院」)」を設置するものである。(以下省略)

2 教育院の理念

・・・(省略)・・・教育院は、教養・共通教育の企画と実施の責任を一元的に担う独立の部局ではあるが、全部局に開かれているとともに、全部局によって支えられなければならない。・・・(省略)・・・教育院の専任教員、及び、教養・共通教育を担当する各部局の教員は・・・(省略)・・・各教科の教育目標の達成を目指すものである。本学の教育は、高いレベルの研究に裏付けられる必要がある。(以下省略)

3 組織関係

  • 教育院に教育院長を置き、総長の指名とする。
  • 教育院に教養・共通教育協議会(以下「協議会」)を置き、教養・共通教育の実施方針、教育課程の編成方針、教員人事、予算等の重要事項を協議する。
  • 教育院に企画評価専門委員会(以下、「専門委員会」)を置き、授業等の実施状況や組織の運営状況の評価と、それらを踏まえた改善案の作成のほか、教養・共通教育協議会から委任された事項を協議する。
  • 教育院に教養教育部、基礎教育部、外国語教育部を置き、各教育部に部長及び教育部教授会(仮称)を置く。
    (その他4項目省略)

4 定員及び専任教員

  • (1) 教育院には・・・省略・・・必要な定員を配当する。
  • (2) 定員数は・・・省略・・・平成25年度中に決定する。
  • (3) 上記の定員は、現在、教養・共通教育の責任を負っている定員の中から措置する。
  • (4) 教育院は、必要に応じ、その定員を各部局に再配当する。再配当を受けた部局は、再配当された定員に応じ、教育院が依頼する科目を提供する。提供科目数が減少した場合、その数に応じて再配当を解消する。
  • (5)当初の再配当については、原則として(3)の各部局の意向に基づき行う。
  • (6) 定員移動に伴い教員が教育院に移籍する場合、当該教員が元部局を併任することを認める。
  • (7) 教育院への定員配当及び教育院から各部局への再配当は、平成26年4月1日に行うものとするが、専門委員会委員の定員に関しては、平成25年4月1日に行うものとし、30程度を目安として上記(3)の定員の中から措置する。

5 設置の過程

  • 設置準備委員会において、専門委員会委員を選任するとともに、そのための定員の措置について検討する。
  • 平成25年4月1日の教育院設置にあたり、専門委員会委員たる教員を教育院に配置換え等するとともに・・・(以下省略)
  • 専門委員会は、平成26年度以降の授業科目、授業方針、成績評価等について検討を行うとともに、それらを基礎として各部局の安定的な運営に配慮しながら教育院の組織や定員に関しても検討を行い、協議会にその結果を報告する。
  • 協議会は、専門委員会の報告を受けて、必要となる組織・定員に関して原案を作成し、それに基づいて教育院長は、総長に対し・・・省略・・・提案を行う。総長は、この提案の可否について全学会議に諮るものとする。
  • 教育院長は、専門委員会及び協議会の意見に基づき、必要な人事措置を執るものとする。

6 その他

(以下省略)

II 問題点

1 拙速さと杜撰さ

  • 議案1(「設置の趣旨等」)には、平成21年11月以来続けてきた検討を結実させた成果が教育院構想であるかのように述べられていますが、本構想は、本年(平成24年)6月に設置された「大学改革特別委員会」において、松本紘総長から突如提案され、あらゆる反対意見を無視して強引に推し進められたものです。
  • 議案1には、これまで長年にわたり幅広い高度な教養教育の基盤作り及び実施に成果を挙げてきた人間・環境学研究科、ならびに高等教育研究開発推進機構を中心とする現在の組織体制について、特に具体的な問題点を挙げていません。ここには、たんに現在の二元的体制を一元化すること、すなわち総長による一元的管理を強化するというねらいしか見られません。これは、高等教育研究開発推進機構を廃止し、実施責任部局の意向を無視してまで新組織を設置しなければならない根拠としては、不十分なものです。
  • 本構想は、本年末に決定された教育院を、わずか数カ月後の「平成25年4月1日」に設置し(議案5第2項)、定員数を「平成25年度中に決定」する(議案4の(2))という、きわめて拙速な画策です。その後「平成26年度以降の授業科目、授業方法、成績評価等について検討を行い」(議案5第3項)、「平成26年4月1日」に定員配当・再配当を行う(議案4の(7))とあるように、具体的な教育内容や人員配置を後回しにして、先に枠組のみを固めてしまうという強引かつ杜撰なやり方は、教育の責任を担う大学において許されるべき手続きではありません。

2 学生の主体性への配慮と教育理念の欠如

  • 議案2(「教育院の理念」)は、教養・共通教育の企画・実施体制について表面的に触れているだけで、肝心の「教養・共通教育とは何か」という本質的な理念に関しては述べていません。「本学の教育は、高いレベルの研究に裏付けられる必要がある」という一文のみは、辛うじて教育理念に関わる内容と言えますが、本構想の原案では、「専任教員には研究は不要」という趣旨の文さえ含まれていたことからすると、十分練られた理念ではないことが懸念されます。
  • そもそも教養・共通教育とは専門知にとどまらない教養知の育成です。それは社会のなかで主体的に生きる学生の全人格にかかわる知であり、その習得には学生の主体的取り組みを不可欠の条件とします。にもかかわらず、本決議に至るまでの教養・共通教育「改革」には、大学当局による教員・学生の上からの管理統制という論理しか見られません。この論理が学生の主体的取り組みを促すべき教養教育のあり方と矛盾することは明らかです。

3 組織上の問題点

  • 教育院は、「独立の部局」(議案2)とされていますが、教育院長が「総長の指名」によって定められること(議案3「組織関係」)からも、それは総長直轄の教員集団であって、構成員の自治によって成り立つ独立部局としては構想されていないと言えます。
  • 同日に開催された臨時部局会議の配布資料では、議案3に「各教育部に部長を置く」と書かれていましたが、同会議終了の15分後に開始された教育研究評議会の資料では、「各教育部に部長及び教育部教授会(仮称)を置く」(下線部追加)という文言に修正されました。急遽追加されたこの「教育部教授会」は、教育院のなかに複数存在する小規模な教授会であり、また、どの程度自治が保証された議決機関であるかは、定かではありません。「協議会」が教員人事、予算等を協議すると明記されていますので、「教育部教授会」は権限の乏しい名ばかりの組織のように見えます。

4 「定員及び専任教員」の概念規定の曖昧さ

  • 教育院構想が最初に提案されて以来、12月10日に各部局長宛てに送付された「総長叩き台案」に至るまで、案には具体的な定員数が明示されていました(人間・環境学研究科96または135、理学研究科27ほか)。8日後に開催された臨時部局長会議の配布資料では、議案4(「定員及び専任教員」)の(7)にある「30程度を目安として」という箇所以外では、この数値が消去されましたが、議案4の(3)に「定員は、現在、教養・共通教育の責任を負っている定員の中から措置する」と述べられているとおり、想定されている人員配置の内訳は変わっていないものと推測されます。むしろ、それが隠蔽された結果、平成26年4月までに設置準備委員会や専門委員会、協議会でさらなる改悪がなされる危険性があります。しかも、そこで検討された組織・定員に関する案は「全学会議」に諮るとされていますが、この「全学会議」の性格も不明です。
  • 本案には、各部局への「再配当」(議案4の(4)(5)(7))という意味不明の言葉が繰り返し用いられています。そのほか科目の「提供」(議案4の(4))、「併任」(議案4の(6))、定員の「措置」(議案4の(3)、議案5第1項)、「配置換え」(議案5第2項)等の言葉が入り混じり、統一的な用語が使用されていません。また、「専任教員」という用語は議案4の(1)~(7)に使用されておらず、実体が不明です。しかも、議案4の(4)には、「提供科目数が減少した場合、その数に応じて再配当を解消する」とあり、将来部局のポストを教育院に吸い上げようとする意図が垣間見られます。
  • 教育院構想における「移籍」に対して、所属学生を擁する総合人間学部・人間環境学研究科としては、強い反対を表明してきました。しかし、議案4の(6)には、「移籍」という言葉が執拗に現れ、「再配当」という言葉とのすり替えが行われているかに見えます。移籍した教員が「元部局を併任することを認める」とありますが、教育院における授業担当コマ数が不明のままでは、実質的な併任の可能性が保証されているとは言えません。

5 「各部局の安定的運営」の不確かさ

  • 同日に開催された臨時部局会議の配布資料では、議案5(「設置の過程」)に「専門委員会は・・・それらを基礎として教育院の組織や定員に関しても検討を行い・・・」と書かれていましたが、教育研究評議会の直前に「・・・それらを基礎として各部局の安定的な運営に配慮しながら教育院の組織や・・・」(下線部追加)という文言に修正されました。しかし、上記4で挙げたとおり、本案には、定員の「配当」「再配当」「移籍」等の内容が含まれているため、「各部局の安定的な運営」がいかに可能であるかは、まったく不確実ですし、何をもって「安定的な運営」とするのかが、説明されていません。当初提示されていたように、39名いれば人間・環境学研究科の「安定的な運営」は可能だ、と強弁される余地があります。これでは、総長が議長の裁量により採決なしで了承を得るために、体裁上付け加えた文言にすぎなかった、と解釈されても仕方ないのではないでしょうか。
  • 以上から、本構想は、総長が教員を直接的な管理下に置くとともに、そのポストを自らの自由裁量とすることを目的の一部とし、各部局の安定的運営を脅かすものにほかならないと言えます。「高い倫理性」「自由と調和に基づく知」「教育研究組織の自治」等を目指す京都大学の<基本理念>に著しく反したこのような暴挙が行われることを、私たちは何としても阻止しなければなりません。

 

Share on Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加

1 Comment to 最終決議案「国際高等教育院の設置について」(12/18)の概要と問題点

  • 4(6)の「当該教員が元部局を併任することを認める」の併任が実際にはかなり困難な状況に陥ると思われます.専任以外,不可能なのではないでしょうか.現場での実態を考慮せずに進めると,すぐに問題が噴出するように思います.

コメントを残す