「国際高等教育院=教養教育改悪」の経緯
「国際高等教育院」構想は、今年6月に設置された「大学改革特別委員会」において、従来賛成の多かった別の案を無視して松本紘総長から提示された案で、来年4月1日の設立を目指しています。当初は、京大生の英語力を向上させるために、ネイティブ・スピーカー100人程度を雇用するといった漠然とした構想でした。そのうち、この雇用に必要な予算はつかないことになりました。こうした状況の中、6月から一転して、全学共通科目を担当している人間・環境学研究科(人環)・総合人間学部(総人)の教員のうち96人分、理学研究科の教員のうち27人分、その他の部局からも数人単位のポストを「国際高等教育院」に移すという案が示されました。現在135人いる人環・総人の教員のうち、39人だけを人環・総人に残し、配置換え96人分は人環・総人を併任または兼担とすることになっています。総人・人環では、この案に次の理由で反対しています。
1.「国際高等教育院」構想は、教養教育の破壊です。
私たちは、全学共通科目の教育と、専門科目の教育を序列化すべきではないと考えます。すなわち、全学共通科目を教える教員は研究をせずにたくさんの授業を担当させればよいとか、全学共通科目は有期雇用の教員に担当させればよいといった考え方は拒否します。同時に、専門教育担当者は全学共通科目を持つ必要はないという考え方にも与しません。たとえば、優秀な数学者が1年生の一般教育を教えたことで、お互いにその面白さに目覚めた例が、日本でも、また欧米の大学でもあるからです。研究はもちろん、大学院・学部の教育にも携わる教員が、その経験とセンスをベースに行う教養教育にこそ、学生は魅力を感じるはずです。とくに、本学の優秀な学生が、教養教育「専従」教員の授業に満足するとは到底思えません。
2.「国際高等教育院」構想は、学部自治の破壊です。
「国際高等教育院構想」は、松本総長が一方的に押しつけてきたものです。冨田恭彦研究科長の度重なる質問、異議申し立て、対案としての「CU(Core Unit)21」(4.参照)提示、教授会での反対声明は、残念ながら無視されてきました。総長は当初「当該部局の反対する案を無理に通すことはしない」とおっしゃっていました。にもかかわらず、この構想で最も影響を被る人環・総人からの異議に全く答えることもなく、教授会による反対決議をも無視しつづけ、強硬に構想を押し進めようとしています。松本総長のこのような大学運営は、もはや恐怖政治の域に達しており、学部自治を重んじる本学の伝統は風前のともしびです。「国際高等教育院」への強制的な配置換えを前例として、教員・部局の意向を無視した組織改変が横行することを私たちは強く危惧します。
3.「国際高等教育院」構想は、人環・総人の破壊です。
私たちは、約20年前、教養部が改組され総人・人環が誕生して以来、学部・大学院の専門教育と全学共通科目を、すべての教員が公平に担当するという理念のもとに、全教員が一丸となって教育を行ってきました。具体的には、幅広い専門領域をカバーする教員集団によって、総人では理系・文系にまたがる5つの学系を、人環では3専攻の組織体制をつくり、教育・研究を推進してきたのです。その組織体制こそ、幅広い高度教養教育の基盤であることは言うまでもありません。もし、この組織体制が総人・人環と「国際高等教育院」とに分断されれば、これまでの教育指導体制が不可能になります。
4.私たちは、決して現状維持を主張しているのではありません。
人間・環境学研究科教授会では、9月の段階で、総長の提示する「国際高等教育院」構想の対案として「CU(Core Unit)21」構想を提案し、総長はじめ、各部局長に送付しています。これは、総長指名の責任者、および、10学部から各2名の出向教員によって構成される常駐組織であり、高等教育研究開発推進機構の弱点とされる「企画力」を強化する組織です。ここでは、「人文・社会科学系科目群」「自然・応用科学系科目群」「外国語系科目群」「現代社会適応科目群」「拡大科目群」それぞれに4名ずつの企画・調整担当の教員を配置し、各学部の意見を集約して適切な改革を行います。これによって、従来の弱点は克服できるにもかかわらず、総長は真摯に検討していません。
京大が百年かけて育ててきた貴重な教養教育体制をさらに充実させるために、全学の真摯なご検討をお願いする次第です。
人間・環境学研究科・総合人間学部 教員有志
(配布ビラ No.5_Ver.2.4:2012年11月16日 より)
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